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    86-1.                
     86. Tena kho pana samayena daharo kumāro mando uttānaseyyako abhayassa rājakumārassa aṅke nisinno hoti.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Tena    代的 副具 それ、彼、それによって、それゆえ  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      pana    不変 また、しかし、しからば、しかも、しかるに、さて  
      samayena    a 副具  
      daharo    a 幼い、若い  
      kumāro    a 童子  
      mando    a 鈍い、遅い  
      uttāna  ud-tan a 明瞭な、上向きの  
      seyyako  śī a 横たわる  
      abhayassa    a 人名、アバヤ  
      rāja    an 依(属)  
      kumārassa    a 童子  
      aṅke    a 胸、腹、脇  
      nisinno  ni-sad 過分 a 坐った  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      hoti.  bhū ある、なる、存在する  
    訳文                
     さてそのとき、幼く、動きの鈍い、仰向けに横たわる童子が、アバヤ王子の胸に坐っていた。  
                       
                       
                       
    86-2.                
     Atha kho bhagavā abhayaṃ rājakumāraṃ etadavoca –   
      語根 品詞 語基 意味  
      Atha    不変 ときに、また、そこに  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      bhagavā    ant 世尊  
      abhayaṃ    a 人名、アバヤ  
      rāja    an 依(属)  
      kumāraṃ    a 童子  
      etad    代的 これ  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      avoca –  vac いう  
    訳文                
     そこで世尊はアバヤ王子にこう仰った。  
                       
                       
                       
    86-3.                
     ‘‘taṃ kiṃ maññasi, rājakumāra, sacāyaṃ kumāro tuyhaṃ vā pamādamanvāya dhātiyā vā pamādamanvāya kaṭṭhaṃ vā kaṭhalaṃ [kathalaṃ (ka.)] vā mukhe āhareyya, kinti naṃ kareyyāsī’’ti?   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘taṃ    代的 それ  
      kiṃ    代的 副対 何、なぜ、いかに  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      maññasi,  man 考える  
      語根 品詞 語基 意味  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra,    a 童子  
      sace    不変 もし  
      ayaṃ    代的 これ  
      kumāro    a 童子  
      tuyhaṃ    代的 あなた  
          不変 あるいは  
      pamādam  pra-mad a 放逸  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      anvāya  anu-i 従って、随従して  
      語根 品詞 語基 意味  
      dhātiyā    ī 乳母  
          不変 あるいは  
      pamādam  pra-mad a 放逸  
      anvāya  同上  
      kaṭṭhaṃ    a 木片  
          不変 あるいは  
      kaṭhalaṃ    a 小石  
          不変 あるいは  
      mukhe    a 口、顔  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      āhareyya,  ā-hṛ 取り出す、取り去る、運ぶ、つかむ  
      語根 品詞 語基 意味  
      kin    代的 副対 何、なぜ、いかに  
      ti    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
      naṃ    代的 それ、彼  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      kareyyāsī’’  kṛ なす  
      語根 品詞 語基 意味  
      ti?    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     「王子よ、これをどう考えますか。もしその童子が、あなたの不注意によって、あるいは乳母の不注意によって、木片あるいは小石を口に運んだとします。あなたはそれにいかなるようになすでしょうか」  
                       
                       
                       
    86-4.                
     ‘‘Āhareyyassāhaṃ, bhante.   
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      ‘‘Āhareyya  ā-hṛ 取り出す、取り去る、運ぶ、つかむ  
      語根 品詞 語基 意味  
      assu    不変 じつに  
      ahaṃ,    代的  
      bhante.  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ、大徳よ  
    訳文                
     「尊者よ、私は〔それを〕取り上げることでしょう。  
                       
                       
                       
    86-5.                
     Sace, bhante, na sakkuṇeyyaṃ ādikeneva āhattuṃ [āharituṃ (syā. kaṃ.)], vāmena hatthena sīsaṃ pariggahetvā [paggahetvā (sī.)] dakkhiṇena hatthena vaṅkaṅguliṃ karitvā salohitampi āhareyyaṃ.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Sace,    不変 もし  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ、大徳よ  
      na    不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      sakkuṇeyyaṃ  śak 能反 できる、可能である  
      語根 品詞 語基 意味  
      ādikena    a 最初から、直ちに  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      āhattuṃ,  ā-hṛ 不定 取り出すこと、取り去ること、運ぶこと、つかむこと  
      vāmena    a 左の  
      hatthena  hṛ a  
      sīsaṃ    a  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      pariggahetvā  pari-grah 抱く、抱える  
      語根 品詞 語基 意味  
      dakkhiṇena    代的 巧みな、右の  
      hatthena  hṛ a  
      vaṅka    名形 a 曲がった、鉤  
      aṅguliṃ    i  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      karitvā  kṛ なす  
      語根 品詞 語基 意味  
      salohitam    a 副対 血を伴う  
      pi    不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      āhareyyaṃ.  ā-hṛ 能反 取り出す、取り去る、運ぶ、つかむ  
    訳文                
     尊者よ、もし真っ先に取り上げることができなかったなら、左手で頭を抱え、右手で指を鉤となして、血が出たとしても取り上げます。  
    メモ                
     ・相手が嫌がっても、それが相手のためになるならばやる、という話であるから、出血するのは王子の指ではなく童子の口であると考え、salohitamaṅguliṃにかかる形容ではなく、副詞的対格とした。  
                       
                       
                       
    86-6.                
     Taṃ kissa hetu?   
      語根 品詞 語基 意味  
      Taṃ    代的 それ  
      kissa    代的 何、誰  
      hetu?  hi u 副対 因、原因(属格に副対で「〜のゆえに」  
    訳文                
     それはなぜか。  
                       
                       
                       
    86-7.                
     Atthi me, bhante, kumāre anukampā’’ti.   
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      Atthi  as ある、なる  
      語根 品詞 語基 意味  
      me,    代的  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ、大徳よ  
      kumāre    a 童子  
      anukampā’’  anu-kamp ā 同情、憐愍  
      ti.    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     尊者よ、私には童子に対する憐愍があるからです」  
                       
                       
                       
    86-8.                
     ‘‘Evameva kho, rājakumāra, yaṃ tathāgato vācaṃ jānāti abhūtaṃ atacchaṃ anatthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ appiyā amanāpā, na taṃ tathāgato vācaṃ bhāsati.   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Evam    不変 このように、かくの如き  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      kho,    不変 じつに、たしかに  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra,    a 童子  
      yaṃ    代的 (関係代名詞)  
      tathāgato  tathā-(ā-)gam a 如来  
      vācaṃ  vac ā 言葉  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      jānāti  jñā 知る  
      語根 品詞 語基 意味  
      abhūtaṃ  a-bhū 名形 a 不実の  
      atacchaṃ    名(形) a 虚偽  
      anattha    a 依(具) 無義、不利益  
      saṃhitaṃ  saṃ-dhā 過分 a 伴った、具した  
          代的 それ、彼女  
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      paresaṃ    代的 他の  
      appiyā    a 不愛の、不可愛の、怨憎の  
      amanāpā,    a 不可意の、不適意の  
      na    不変 ない  
      taṃ    代的 それ  
      tathāgato  tathā-(ā-)gam a 如来  
      vācaṃ  vac ā 言葉  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      bhāsati.  bhāṣ いう、語る  
    訳文                
     まさにそのように、王子よ、およそ如来がその言葉を不実の、虚偽のものであり、〔また〕無益なものであると知り、またそれが他者たちにとって不可愛、不適意なものであるならば、如来はその言葉を発しません。  
                       
                       
                       
    86-9.                
     Yampi tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ anatthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ appiyā amanāpā, tampi tathāgato vācaṃ na bhāsati.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Yampi tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ anatthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ appiyā amanāpā, tampi tathāgato vācaṃ na bhāsati. (86-8.)  
      pi    不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      bhūtaṃ  bhū 過分 a 存在した、真実  
      tacchaṃ    a 如実  
    訳文                
     また、およそ如来がその言葉を真実の、如実のものであり、〔しかし〕無益なものであると知り、またそれが他者たちにとって不可愛、不適意なものであるならば、如来はその言葉を発しません。  
                       
                       
                       
    86-10.                
     Yañca kho tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ atthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ appiyā amanāpā, tatra kālaññū tathāgato hoti tassā vācāya veyyākaraṇāya.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Yañca kho tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ atthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ appiyā amanāpā, (86-9.)  
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      attha    a 男中 依(具) 義、利益  
      tatra    不変 そこで、そこに、そのとき、そのなかで  
      kālaññū    ū 適時を知る者  
      tathāgato  tathā-(ā-)gam a 如来  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      hoti  bhū ある、なる、存在する  
      語根 品詞 語基 意味  
      tassā    代的 それ、彼女  
      vācāya  vac ā 言葉  
      veyyākaraṇāya.  vi-ā-kṛ a 解答、授記  
    訳文                
     しかし、およそ如来がその言葉を真実の、如実のものであり、〔また〕有益なものであると知れば、それが他者たちにとって不可愛、不適意なものであっても、その場合如来は、解答のための、その言葉の適時を知る者となります。  
                       
                       
                       
    86-11.                
     Yaṃ tathāgato vācaṃ jānāti abhūtaṃ atacchaṃ anatthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ piyā manāpā, na taṃ tathāgato vācaṃ bhāsati.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Yaṃ tathāgato vācaṃ jānāti abhūtaṃ atacchaṃ anatthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ piyā manāpā, na taṃ tathāgato vācaṃ bhāsati. (86-8.)  
      piyā    a 可愛の、所愛の  
      manāpā,    a 可意の、適意の  
    訳文                
     およそ如来がその言葉を不実の、虚偽のものであり、〔また〕無益なものであると知れば、それが他者たちにとって可愛、適意なものであっても、如来はその言葉を発しません。  
                       
                       
                       
    86-12.                
     Yampi tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ anatthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ piyā manāpā tampi tathāgato vācaṃ na bhāsati.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Yampi tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ anatthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ piyā manāpā tampi tathāgato vācaṃ na bhāsati. (86-9.)  
      piyā    a 可愛の、所愛の  
      manāpā,    a 可意の、適意の  
    訳文                
     また、およそ如来がその言葉を真実の、如実のものであり、〔しかし〕無益なものであると知れば、それが他者たちにとって可愛、適意なものであっても、如来はその言葉を発しません。  
                       
                       
                       
    86-13.                
     Yañca tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ atthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ piyā manāpā, tatra kālaññū tathāgato hoti tassā vācāya veyyākaraṇāya.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Yañca tathāgato vācaṃ jānāti bhūtaṃ tacchaṃ atthasaṃhitaṃ sā ca paresaṃ piyā manāpā, tatra kālaññū tathāgato hoti tassā vācāya veyyākaraṇāya. (86-10.)  
      piyā    a 可愛の、所愛の  
      manāpā,    a 可意の、適意の  
    訳文                
     しかし、およそ如来がその言葉を真実の、如実のものであり、〔また〕有益なものであると知り、またそれが他者たちにとって可愛、適意なものであるならば、その場合如来は、解答のための、その言葉の適時を知る者となります。  
    メモ                
     ・虚偽ではあるが有益な場合(つまりいわゆる「嘘も方便」)についてあえて言及されていないところが興味深い。  
                       
                       
                       
    86-14.                
     Taṃ kissa hetu?   
      語根 品詞 語基 意味  
      Taṃ kissa hetu? (86-6.)  
    訳文                
     それはなぜか。  
                       
                       
                       
    86-15.                
     Atthi, rājakumāra, tathāgatassa sattesu anukampā’’ti.  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      Atthi,  as ある、なる  
      語根 品詞 語基 意味  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra,    a 童子  
      tathāgatassa  tathā-(ā-)gam a 如来  
      sattesu    a 有情、衆生  
      anukampā’’  anu-kamp ā 同情、憐愍  
      ti.    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     王子よ、私には有情たちに対する憐愍があるからです」  
                       
                       
                       
    87-1.                
     87. ‘‘Yeme, bhante, khattiyapaṇḍitāpi brāhmaṇapaṇḍitāpi gahapatipaṇḍitāpi samaṇapaṇḍitāpi pañhaṃ abhisaṅkharitvā tathāgataṃ upasaṅkamitvā pucchanti, pubbeva nu kho, etaṃ, bhante, bhagavato cetaso parivitakkitaṃ hoti ‘ye maṃ upasaṅkamitvā evaṃ pucchissanti tesāhaṃ evaṃ puṭṭho evaṃ byākarissāmī’ti, udāhu ṭhānasovetaṃ tathāgataṃ paṭibhātī’’ti?  
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Ye    代的 (関係代名詞)  
      ime,    代的 これら  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ、大徳よ  
      khattiya    a 依(属) 刹帝利、クシャトリヤ、王族  
      paṇḍitā    a 賢い、博学の  
      pi    不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      brāhmaṇa  bṛh a 依(属) 婆羅門  
      paṇḍitā    a 賢い、博学の  
      pi    不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      gahapati    i 依(属) 家主、居士、資産家  
      paṇḍitā    a 賢い、博学の  
      pi    不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      samaṇa  śram a 依(属) 沙門  
      paṇḍitā    a 賢い、博学の  
      pi    不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      pañhaṃ    a 問い、質問  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      abhisaṅkharitvā  abhi-saṃ-kṛ 為作する、現行する  
      語根 品詞 語基 意味  
      tathāgataṃ  tathā-(ā-)gam a 如来  
      upasaṅkamitvā  upa-saṃ-kram 近づく  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      pucchanti,  prach 問う、質問する  
      語根 品詞 語基 意味  
      pubbe    不変 前に、以前に  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      nu    不変 いったい、たぶん、〜かどうか、〜ではないか  
      kho,    不変 じつに、たしかに  
      etaṃ,    代的 これ  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ、大徳よ  
      bhagavato    ant 世尊  
      cetaso  cit as  
      parivitakkitaṃ  pari-vi-tark 過分 a 審慮された、尋求された  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      hoti  bhū ある、なる、存在する  
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘ye    代的 (関係代名詞)  
      maṃ    代的  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      upasaṅkamitvā  upa-saṃ-kram 近づく  
      語根 品詞 語基 意味  
      evaṃ    不変 このように、かくの如き  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      pucchissanti  prach 問う、質問する  
      語根 品詞 語基 意味  
      tesaṃ    代的 それら、彼ら  
      ahaṃ    代的  
      evaṃ    不変 このように、かくの如き  
      puṭṭho  prach 過分 a 問われた  
      evaṃ    不変 このように、かくの如き  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      byākarissāmī’  vi-ā-kṛ 解答する、授記する  
      語根 品詞 語基 意味  
      ti,    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
      udāhu    不変 あるいは、または、然らざれば  
      ṭhānaso  sthā a 副奪 即座に  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      etaṃ    代的 これ  
      tathāgataṃ  tathā-(ā-)gam a 如来  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      paṭibhātī’’  prati-bhā 現れる、明らかとなる  
      語根 品詞 語基 意味  
      ti?    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     「尊者よ、およそ刹帝利の賢者、婆羅門の賢者、居士の賢者、また沙門の賢者たち、彼らは問いをなして如来へ近づき、質問します。尊者よ、いったい、如来の心には、『およそ彼らは私へ、近づいてこのように問うであろうから、問われた私は、彼らへこのように解答するとしよう』というこのことが、あらかじめ審慮されているのでしょうか。それとも、このことは、〔問われてから〕即座に如来に明らかになるのでしょうか」  
                       
                       
                       
    87-2.                
     ‘‘Tena hi, rājakumāra, taññevettha paṭipucchissāmi, yathā te khameyya tathā naṃ byākareyyāsi.   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Tena    代的 それ、彼、それによって、それゆえ  
      hi,    不変 じつに、なぜなら →しからば  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra,    a 童子  
      taññ    代的 あなた  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      ettha    不変 ここに  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      paṭipucchissāmi,  prati-prach 質問する、反問する  
      語根 品詞 語基 意味  
      yathā    不変 〜のごとくに、〜のように  
      te    代的 あなた  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      khameyya  kṣam 耐える、許す  
      語根 品詞 語基 意味  
      tathā    不変 かく、その如く  
      naṃ    代的 それ、彼  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      byākareyyāsi.  vi-ā-kṛ 解答する  
    訳文                
     「しからば王子よ、ここでわたしはあなたへ反問しましょう。あなたの〔心が〕許すとおりにそれへ答えて下さい。  
                       
                       
                       
    87-3.                
     Taṃ kiṃ maññasi, rājakumāra, kusalo tvaṃ rathassa aṅgapaccaṅgāna’’nti?  
      語根 品詞 語基 意味  
      Taṃ    代的 それ  
      kiṃ    代的 副対 何、なぜ、いかに  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      maññasi,  man 考える  
      語根 品詞 語基 意味  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra,    a 童子  
      kusalo    a 善き、善巧の  
      tvaṃ    代的 あなた  
      rathassa    a  
      aṅga    a 部分、肢体  
      paccaṅgāna’’n    a 小肢節  
      ti?    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     王子よ、これをどう考えますか。あなたは車の大小の部品に関して巧みですね」  
                       
                       
                       
    87-4.                
     ‘‘Evaṃ, bhante, kusalo ahaṃ rathassa aṅgapaccaṅgāna’’nti.  
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Evaṃ,    不変 このように、かくの如き  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ、大徳よ  
      kusalo    a 善き、善巧の  
      ahaṃ    代的  
      rathassa    a  
      aṅga    a 部分、肢体  
      paccaṅgāna’’n    a 小肢節  
      ti.    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     「尊者よ、そのとおりです。私は車の大小の部品に関して巧みです」  
                       
                       
                       
    87-5.                
     ‘‘Taṃ kiṃ maññasi, rājakumāra, ye taṃ upasaṅkamitvā evaṃ puccheyyuṃ –   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Taṃ kiṃ maññasi, rājakumāra, (87-3.)  
      ye    代的 (関係代名詞)  
      taṃ    代的 あなた  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      upasaṅkamitvā  upa-saṃ-kram 近づく  
      語根 品詞 語基 意味  
      evaṃ    不変 このように、かくの如き  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      puccheyyuṃ –  prach 問う、質問する  
    訳文                
     「王子よ、これをどう考えますか。ある者たちがあなたへ近づいてこのように質問したとします。  
                       
                       
                       
    87-6.                
     ‘kiṃ nāmidaṃ rathassa aṅgapaccaṅga’nti?   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘kiṃ    代的 何、なぜ、いかに  
      nāma    an 副対 と、という名の、じつに  
      idaṃ    代的 これ  
      rathassa    a  
      aṅga    a 部分、肢体  
      paccaṅga’n    a 小肢節  
      ti?    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     『この車の大小の部品は何というのですか』と。  
                       
                       
                       
    87-7.                
     Pubbeva nu kho te etaṃ cetaso parivitakkitaṃ assa ‘ye maṃ upasaṅkamitvā evaṃ pucchissanti tesāhaṃ evaṃ puṭṭho evaṃ byākarissāmī’ti, udāhu ṭhānasovetaṃ paṭibhāseyyā’’ti?  
      語根 品詞 語基 意味  
      Pubbeva nu kho te etaṃ cetaso parivitakkitaṃ assa ‘ye maṃ upasaṅkamitvā evaṃ pucchissanti tesāhaṃ evaṃ puṭṭho evaṃ byākarissāmī’ti, udāhu ṭhānasovetaṃ paṭibhāseyyā’’ti? (87-1.)  
      te    代的 あなた  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      assa  as ある、なる  
      paṭibhāseyyā’’  prati-bhāṣ/bhās 応答する、返答する/現れる、明らかとなる  
    訳文                
     いったい、あなたの心には、『およそ彼らは私へ、近づいてこのように問うであろうから、問われた私は、彼らへこのように解答するとしよう』というこのことが、あらかじめ審慮されているのでしょうか。それとも、このことは、〔問われてから〕即座に明らかになるのでしょうか」。  
    メモ                
     ・(追記)87-1.ではpaṭibhātiであった箇所が、paṭibhāseyyaとなっている。この二語は語形は似ているが別単語のはずである。前者は語根prati-bhā由来、後者はprati-bhāṣもしくはbhās由来の語である。  
     ・パーリ語の辞書類を見ると、paṭibhāseyyaの現在形 paṭibhāsetiは「応答する、返答する」といった語義のみが掲載され、またそのうちPTS辞書および雲井辞書はその語根をprati-bhāsとしている。だが「話す」を意味する語根がbhāṣであり、bhāsは「照る、輝く」であるので、これは額面どおりには受け取れない。そこでモニエルの梵英辞書を見たところ、prati-bhāṣanswerなどとしている。一方prati-bhāsmanifestappearなどとされており、これはprati-bhāと近い意味合いといえる。  
     ・さて問題の二語は、『中部』79「小サクルダーイン経」や『相応部』41-2, 3「第一/第二のイシダッタ経」などでも一緒に登場するので、定型的なペアを形成しているようである。しかし本経87-10. ではmaṃという目的語があるため、「私に明らかになる」と訳さざるを得ないのに対し「イシダッタ経」では、どちらでも文意は通るものの「返答すべき」とした方がより適切であるように思われる。  
     ・そこでここでは、モニエルの挙げる二義を用いて、本経や「小サクルダーイン経」ではprati-bhās由来の「明らかとなる」、「イシダッタ経」ではprati-bhāṣ由来の「返答する」ととって、訳し分けることとした。(定型表現とおぼしき語を、同音異義語として経によって訳し分けることにも若干の躊躇は残るのだが)。  
     ・もう一つ考えられるのは、経の編者が一貫してpaṭibhāseyyaを語根prati-bhāの願望法であると認識(誤認?)して用いているという可能性である。全ての場面で「明らかとなる」と読んでいちおう文意が通じないわけではないし、こう考えれば、これら二語が対句となっていても不自然ではなくなる。とはいえこれも苦しい点のいくつも残る解釈ではある。  
                       
                       
                       
    87-8.                
     ‘‘Ahañhi, bhante, rathiko saññāto kusalo rathassa aṅgapaccaṅgānaṃ.   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Ahañ    代的  
      hi,    不変 じつに、なぜなら  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ、大徳よ  
      rathiko    a 車兵、乗者者  
      saññāto  saṃ-jñā a 呼ばれた、考えられた  
      kusalo    a 善き、善巧の  
      rathassa    a  
      aṅga    a 部分、肢体  
      paccaṅgānaṃ.    a 小肢節  
    訳文                
     「なんとなれば尊者よ、私は乗り手として知られており、車の大小の部品に関しては巧みです。  
                       
                       
                       
    87-9.                
     Sabbāni me rathassa aṅgapaccaṅgāni suviditāni.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Sabbāni    名形 代的 すべて  
      me    代的  
      rathassa    a  
      aṅga    a 部分、肢体  
      paccaṅgāni    a 小肢節  
      suviditāni.  su-vid 過分 a よく知られた  
    訳文                
     すべての車の大小の部品は、私によって熟知されています。〔それゆえ〕、  
                       
                       
                       
    87-10.                
     Ṭhānasovetaṃ maṃ paṭibhāseyyā’’ti.  
      語根 品詞 語基 意味  
      ṭhānasovetaṃ maṃ paṭibhāseyyā’’ti. (87-1.)  
      maṃ    代的  
    訳文                
     そのこと(質問への回答)は、〔問われてから〕即座に私に明らかになることでしょう」  
                       
                       
                       
    87-11.                
     ‘‘Evameva kho, rājakumāra, ye te khattiyapaṇḍitāpi brāhmaṇapaṇḍitāpi gahapatipaṇḍitāpi samaṇapaṇḍitāpi pañhaṃ abhisaṅkharitvā tathāgataṃ upasaṅkamitvā pucchanti, ṭhānasovetaṃ tathāgataṃ paṭibhāti.   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Evam    不変 このように、かくの如き  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      kho,    不変 じつに、たしかに  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra,    a 童子  
      ye    代的 (関係代名詞)  
      te    代的 それら、彼ら  
      khattiyapaṇḍitāpi brāhmaṇapaṇḍitāpi gahapatipaṇḍitāpi samaṇapaṇḍitāpi pañhaṃ abhisaṅkharitvā tathāgataṃ upasaṅkamitvā pucchanti, ṭhānasovetaṃ tathāgataṃ paṭibhāti. (87-1.)  
    訳文                
     「王子よ、まさにそのように、およそ刹帝利の賢者、婆羅門の賢者、居士の賢者、また沙門の賢者たち、彼らは問いをなして如来へ近づき、質問しますが、そのこと(質問への回答)は、〔問われてから〕即座に如来に明らかになるのです。  
                       
                       
                       
    87-12.                
     Taṃ kissa hetu?   
      語根 品詞 語基 意味  
      Taṃ kissa hetu? (86-6.)  
    訳文                
     それはなぜか。  
                       
                       
                       
    87-13.                
     Sā hi, rājakumāra, tathāgatassa dhammadhātu suppaṭividdhā yassā dhammadhātuyā suppaṭividdhattā ṭhānasovetaṃ tathāgataṃ paṭibhātī’’ti.  
      語根 品詞 語基 意味  
          代的 それ  
      hi,    不変 じつに、なぜなら  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra,    a 童子  
      tathāgatassa  tathā-(ā-)gam a 如来  
      dhamma  dhṛ a 男中 依(属)  
      dhātu    u 界、要素、道理  
      suppaṭividdhā  su-prati-vyadh 過分 a よく通達、洞察、理解された  
      yassā    代的 (関係代名詞)  
      dhamma  dhṛ a 男中 依(属)  
      dhātuyā    u 界、要素、道理  
      suppaṭividdhattā  su-prati-vyadh a よく理解されたこと  
      ṭhānasovetaṃ tathāgataṃ paṭibhātī’’(87-1.)  
      ti.    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     なぜなら王子よ、如来には、およそその法の道理がよく理解されることによって〔質問への回答が、問われてから〕即座に如来に明らかになるような、その法の道理がよく理解されているからです」  
    メモ                
     ・ここでは十八界のうちの「法界」がいわれているとも考えにくいので、上記のようにした。『パーリ』は「法の要素」、『原始』は「物事の本質」としている。  
                       
                       
                       
    87-14.                
     Evaṃ vutte, abhayo rājakumāro bhagavantaṃ etadavoca –   
      語根 品詞 語基 意味  
      Evaṃ    不変 このように、かくの如き  
      vutte,  vac 受 過分 a 男中 いわれた  
      abhayo    a 人名、アバヤ  
      rāja    an 依(属)  
      kumāro    a 童子  
      bhagavantaṃ    ant 世尊  
      etad    代的 これ  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      avoca –  vac いう  
    訳文                
     このようにいわれて、アバヤ王子は世尊へこういった。  
                       
                       
                       
    87-15.                
     ‘‘abhikkantaṃ, bhante, abhikkantaṃ, bhante…pe…   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘abhikkantaṃ,  abhi-kram 名過分 a 偉なるかな、奇なるかな、希有なり、素晴らしい  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      abhikkantaṃ,  abhi-kram 名過分 a 偉なるかな、奇なるかな、希有なり、素晴らしい  
      bhante…pe…  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
    訳文                
     「尊者よ、素晴らしい、尊者よ、素晴らしい……  
                       
                       
                       
    87-16.                
     ajjatagge pāṇupetaṃ saraṇaṃ gata’’nti.  
      語根 品詞 語基 意味  
      ajja   不変 今日、今  
      agge    a 第一、最高、最上、首位、頂点 →今日以降  
      pāṇa pra-an a 依(対) 生類、生命  
      upetaṃ  upa-i 過分 a 副対 そなえた、具備した →命ある限り  
      saraṇaṃ  sṛ a 帰依処  
      gata’’n  gam 過分 a 行った →帰依した  
      ti.    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     ……今日以降、命ある限り、帰依をなした〔優婆塞であるとご記憶下さい〕」と。  
                       
                       
                       
     Abhayarājakumārasuttaṃ niṭṭhitaṃ aṭṭhamaṃ.  
      語根 品詞 語基 意味  
      Abhaya    a 人名、アバヤ  
      rāja    an 依(属)  
      kumāra    a 依(属) 童子  
      suttaṃ  sīv a 経、糸  
      niṭṭhitaṃ  nih-sthā 過分 a 完了した、終わった  
      aṭṭhamaṃ.    a 第八の  
    訳文                
     〔『中部』「中分五十篇」「居士品」〕第八〔経〕「アバヤ王子経」おわり。  
                       
                       
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