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     Makkhaligosālavādo  
      語根 品詞 語基 意味  
      Makkhali   i 人名、マッカリ(末伽梨)  
      gosāla   a 依(属) 人名、ゴーサーラ(拘賖梨子)  
      vādo vad a 説、語、論  
    訳文                
     【マッカリ・ゴーサーラの説】  
                       
                       
                       
    167-1.                
     167. ‘‘Ekamidāhaṃ, bhante, samayaṃ yena makkhali gosālo tenupasaṅkamiṃ; upasaṅkamitvā makkhalinā gosālena saddhiṃ sammodiṃ.   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Ekam   代的 副対 一、とある  
      idaṃ   代的 これ  
      ahaṃ,    代的  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      samayaṃ    a 副対 時、集会  
      yena    代的 (関係代名詞)  
      makkhali    i 人名、マッカリ  
      gosālo    a 人名、ゴーサーラ  
      tena   代的 それ、彼  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      upasaṅkamiṃ;  upa-saṃ-kram 近づく  
      upasaṅkamitvā  upa-saṃ-kram 近づく  
      語根 品詞 語基 意味  
      makkhalinā    i 人名、マッカリ  
      gosālena    a 人名、ゴーサーラ  
      saddhiṃ    不変 共に、一緒に(具格支配)  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      sammodiṃ.  saṃ-mud 喜ぶ、相喜ぶ、挨拶する  
    訳文                
     尊者よ、ある時この私は、マッカリ・ゴーサーラに近づきました。近づいて、マッカリ・ゴーサーラと挨拶しました。  
                       
                       
                       
    167-2.                
     Sammodanīyaṃ kathaṃ sāraṇīyaṃ vītisāretvā ekamantaṃ nisīdiṃ.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Sammodanīyaṃ  saṃ-mud 未分 a よろこばしい  
      kathaṃ    ā 話、説、論  
      sāraṇīyaṃ  saṃ-raj 未分 a 相慶慰すべき、喜ぶべき  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      vītisāretvā  vi-ati-sṛ 使 交わす、交換する  
      語根 品詞 語基 意味  
      ekamantaṃ    不変 一方に  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      nisīdiṃ.  ni-sad 坐る  
    訳文                
     喜ばしき慶賀の言葉を交わしてから、私は一方へ坐りました。  
                       
                       
                       
    167-3.                
     Ekamantaṃ nisinno kho ahaṃ, bhante, makkhaliṃ gosālaṃ etadavocaṃ –   
      語根 品詞 語基 意味  
      Ekamantaṃ    不変 一方に  
      nisinno  ni-sad 過分 a すわった  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      ahaṃ,    代的  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      makkhaliṃ    i 人名、マッカリ  
      gosālaṃ    a 人名、ゴーサーラ  
      etad   代的 これ  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      avocaṃ –  vac いう  
    訳文                
     じつに尊者よ、一方へ坐った私は、マッカリ・ゴーサーラへこう言いました。  
                       
                       
                       
    167-4.                
     ‘yathā nu kho imāni, bho gosāla, puthusippāyatanāni…pe… sakkā nu kho, bho gosāla, evameva diṭṭheva dhamme sandiṭṭhikaṃ sāmaññaphalaṃ paññapetu’nti?  
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘yathā    不変 その如く  
      nu    不変 〜かどうか、〜ではないか  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      imāni,    代的 これら  
      bho  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ  
      gosāla,   a 人名、ゴーサーラ  
      puthu   u 個々の、別々の、広い、多数の  
      sippa   a 有(属) 技術、技芸、工巧、職技、職人  
      āyatanāni,    a 処 →技能  
      …pe…   (略)  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      sakkā  śak 可能である  
      語根 品詞 語基 意味  
      nu    不変 〜かどうか、〜ではないか  
      kho,    不変 じつに、たしかに  
      bho  bhū 名現分 ant(特) 尊者よ  
      gosāla,   a 人名、ゴーサーラ  
      evam   不変 このように、かくの如き  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      diṭṭhe dṛś 過分 a 男中 見られた、見、所見  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      dhamme  dhṛ a 男中 法、教法、真理、正義、もの →現法、現世  
      sandiṭṭhikaṃ  saṃ-dṛś a 現世の、現に見られた、現証の、自見の  
      sāmañña śram a 依(属) 沙門性、沙門位、沙門法  
      phalaṃ  phal a 果、果実  
      paññapetu’n pra-jñā  不定 知らしめること、告知・施設・用意すること  
      ti?   不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     『尊者ゴーサーラよ、じつに、かくのごときこれら多くの技能をもったものたちがいるではありませんか。……尊者ゴーサーラよ、じつにあなたはこのような、まさしく現法において目に見える沙門であることの果報を説明することがかないましょうか』と。  
                       
                       
                       
    168-1.                
     168. ‘‘Evaṃ vutte, bhante, makkhali gosālo maṃ etadavoca –   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘Evaṃ    不変 このように、かくの如き  
      vutte,  vac 受 過分 a 男中 いわれた  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      makkhali    i 人名、マッカリ  
      gosālo    a 人名、ゴーサーラ  
      maṃ    代的  
      etad   代的 これ  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      avoca –  vac いう  
    訳文                
     尊者よ、このようにいわれて、マッカリ・ゴーサーラは私にこう言いました。  
                       
                       
                       
    168-2.                
     ‘natthi mahārāja hetu natthi paccayo sattānaṃ saṃkilesāya, ahetū [ahetu (katthaci)] apaccayā sattā saṃkilissanti.   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      mahā   ant 大きい、偉大な  
      rāja    an  
      hetu  hi u 因、原因  
      na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      paccayo  prati-i a  
      sattānaṃ    a 衆生、有情  
      saṃkilesāya,  saṃ-kliś a 雑染、雑穢、穢汚  
      ahetū  a-hi u 無因の  
      apaccayā  a-prati-i a 無縁の  
      sattā    a 衆生、有情  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      saṃkilissanti.  saṃ-kliś 汚染する、雑染する、汚れる  
    訳文                
     『大王よ、有情の雑染のための因はなく、縁はない。因なく縁なくして、有情は汚れるのである。  
                       
                       
                       
    168-3.                
     Natthi hetu, natthi paccayo sattānaṃ visuddhiyā, ahetū apaccayā sattā visujjhanti.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      hetu,  hi u 因、原因  
      na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      paccayo  prati-i a  
      sattānaṃ    a 衆生、有情  
      visuddhiyā,  vi-śudh i 清浄、浄  
      ahetū  a-hi u 無因の  
      apaccayā  a-prati-i a 無縁の  
      sattā    a 衆生、有情  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      visujjhanti.  vi-śudh 清まる、清くなる  
    訳文                
     有情の清浄のための因はなく、縁はない。因なく縁なくして、有情は清まるのである。  
                       
                       
                       
    168-4.                
     Natthi attakāre, natthi parakāre, natthi purisakāre, natthi balaṃ, natthi vīriyaṃ, natthi purisathāmo, natthi purisaparakkamo.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      atta   an 依(具) 自分、我、アートマン  
      kāre,  kṛ a(代) 行為、所作、字、文字、作者  
      natthi 同上  
      para   代的 依(具) 他の、上の、超えた  
      kāre,  kṛ a(代) 行為、所作、字、文字、作者  
      natthi 同上  
      purisa   a 依(具) 人間、男  
      kāre,  kṛ a(代) 行為、所作、字、文字、作者  
      natthi 同上  
      balaṃ,    名形 a  
      natthi 同上  
      vīriyaṃ,    a 精進、勤  
      natthi 同上  
      purisa    a 依(属) 人間、男  
      thāmo,   a 力、勢力  
      natthi 同上  
      purisa   a 依(属) 人間、男  
      parakkamo.  para-kram a 努力  
    訳文                
     自己の行為はなく、他者の行為はなく、人間の行為はない。〔浄穢を決定するような〕力はない。精進はない。人間の力はない。人間の努力はない。  
    メモ                
     ・Natthi attakāreほかを、『南伝』は「自作もなく」、『パーリ』は「自己による行為はない」、『原始』は「自己による諸行為はなく」などと主格ふうに解する。このゴーサーラの所説をはじめ、ニカーヤ中には、-eという形の語を、男中性複数主格で取ると通じやすい箇所が散見される。水野文法§24-1.の注でいわれる古形-āseと似たものか。おそらくa語基にもかかわらず代名詞的変化をしているものと思われるため、語基をa(代)とした。  
     ・vīriyaviriyaの異体と解した。  
                       
                       
                       
    168-5.                
     Sabbe sattā sabbe pāṇā sabbe bhūtā sabbe jīvā avasā abalā avīriyā niyatisaṅgatibhāvapariṇatā chasvevābhijātīsu sukhadukkhaṃ [sukhañca dukkhañca (syā.)] paṭisaṃvedenti.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Sabbe    代的 すべて  
      sattā    a 衆生、有情  
      sabbe    名形 代的 中→男 すべて  
      pāṇā  pra-an a 生き物  
      sabbe    名形 代的 中→男 すべて  
      bhūtā    過分 a 存在、生類  
      sabbe    名形 代的 中→男 すべて  
      jīvā  jīv a 中(男) 生命、寿命  
      avasā  a-vaś a 権力、威力、気力、自在、影響なき  
      abalā    a 力なき  
      avīriyā    a 精進なき  
      niyati ni-yam i 有(具) 決定、運命  
      saṅgati saṃ-gam i 結合/不慮の出来事,椿事  
      bhāva bhū a 依(具) 本性、性、状態、態  
      pariṇatā  pari-nam 過分 a 男中 曲った、向けた、寄進した、変化した、消化した  
      chasv    
      eva   不変 まさに、のみ、じつに  
      abhijātīsu  abhi-jan i 生まれ、階級、種類  
      sukha   名形 a  
      dukkhaṃ    名形 a  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      paṭisaṃvedenti.  prati-saṃ-vid 使 感知する、経験する、受ける  
    訳文                
     あらゆる有情、あらゆる生物、あらゆる生類、あらゆる生命たちは、自在なく、力なく、精進なく、運命と結びつけられた本性に曲げられて、ただ六つの生まれにあって苦楽を感受する。  
    メモ                
     ・ここでのjīvāのように、まれに中性名詞は男性名詞のように複数主格でになる。  
     ・niyatisaṅgatibhāvapariṇatāを 『南伝』は「決定と結合と自然の性質とによりて、互に変移し」、『パーリ』は「運命により、結合により、性質により変化し」、『原始』は「決定と〔偶然 の〕結合と本来の性質とに左右され」とする。だが結合とは何であろうか。『註』は「結合とは六つの生まれそれぞれに行くこと」Saṅgatīti channaṃ abhijātīnaṃ tattha tattha gamanaṃ.と述べる。しかしここではsaṅgatiPTS辞書のいう偶発accidental occurrenceの義で取り、かつpariṇatāを「全ての有情」にかかる複数主格ではなく、理由をあらわす単数奪格と取ることで、上記のように訳した。  
     ・ マッカリ・ゴーサーラはしばしば「運命論者」と紹介されるが、ここでの解釈が正しいとすれば、一切は運命や固有性によって決定論的に運行するだけでなく、 偶然や変易性によってもある程度左右されるというのが彼の哲学であるということになる。いずれにせよ、その主題が「自由意思には(輪廻への)如何なる影響 力も伴わない」という事には変わりはない。  
     ・(追記)始め上記のように考え「運命と偶然、〔恒久の〕本性と変化した〔事象〕から」としたが、やはりこの後の升で量られた苦楽や糸玉の譬喩を見るにつけ、運命論的な解釈で訳し直した。  
     ・ 『註』によれば、六つの生まれとは、下位から順にこのようだという。黒:残忍な仕事をする者、青:仏教徒、赤:ジャイナ教徒、一衣者、黄:白衣の俗人、裸 行者、白、アージーヴィカ、純白:マッカリ・ゴーサーラほか。しかしこれらのほとんどはある程度選択可能な宗教的立場であって、生まれabhijātiとは言い難いのではないか。   
                       
                       
                       
    168-6.                
     Cuddasa kho panimāni yonipamukhasatasahassāni saṭṭhi ca satāni cha ca satāni pañca ca kammuno satāni pañca ca kammāni tīṇi ca kammāni kamme ca aḍḍhakamme ca dvaṭṭhipaṭipadā dvaṭṭhantarakappā chaḷābhijātiyo aṭṭha purisabhūmiyo ekūnapaññāsa ājīvakasate ekūnapaññāsa paribbājakasate ekūnapaññāsa nāgāvāsasate vīse indriyasate tiṃse nirayasate chattiṃsa rajodhātuyo satta saññīgabbhā satta asaññīgabbhā satta nigaṇṭhigabbhā satta devā satta mānusā satta pisācā satta sarā satta pavuṭā [sapuṭā (ka.), pabuṭā (sī.)] satta pavuṭasatāni satta papātā satta papātasatāni satta supinā satta supinasatāni cullāsīti mahākappino [mahākappuno (ka. sī. pī.)] satasahassāni, yāni bāle ca paṇḍite ca sandhāvitvā saṃsaritvā dukkhassantaṃ karissanti.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Cuddasa    十四  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      pana   不変 また、しかし、しからば、しかも、しかるに、さて  
      imāni    代的 これら  
      yoni   i 胎、子宮、生、起源、原因  
      pamukha   a 首長の、上首とする  
      sata   a  
      sahassāni    a  
      saṭṭhi    i 六十  
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      satāni    a  
      cha     
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      satāni    a  
      pañca     
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      kammuno    an 男中 業、行為  
      satāni    a  
      pañca     
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      kammāni  kṛ an 業、行為  
      tīṇi     
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      kammāni  kṛ an 業、行為  
      kamme  kṛ an(代) 中(男) 業、行為  
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      aḍḍha   a 半、半分  
      kamme  kṛ an(代) 中(男) 業、行為  
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      dvaṭṭhi   i 六十二  
      paṭipadā  prati-pad ā 道、道跡、行  
      dvaṭṭhi   i 六十二  
      antara   名形 a 内の、中間の、機会、障碍  
      kappā    名形 a 中(男) 劫 →中劫  
      chaḷ    
      abhijātiyo  abhi-jan i 生まれ、階級  
      aṭṭha     
      purisa    a 依(属) 人間、男  
      bhūmiyo   i 地、土地、大地、国土、階位 →人地  
      ekūna   a 一を減じた  
      paññāsa    a 五十 →四十九  
      ājīvaka  ā-jīv a 邪命外道(男)/生活(中)  
      sate   a(代) 中(男)  
      ekūna   a 一を減じた  
      paññāsa    a 五十 →四十九  
      paribbājaka pari-vraj a 遍歴行者  
      sate    a(代) 中(男)  
      ekūna   a 一を減じた  
      paññāsa    a 五十 →四十九  
      nāga   a 依(属) 竜、蛇、象  
      vāsa vas a 住所、家、状態  
      sate    a(代) 中(男)  
      vīse    a(代) 中(男) 二十  
      indriya   a 根、感覚  
      sate    a(代) 中(男)  
      tiṃse    a(代) 中(男) 三十  
      niraya   a 地獄、泥犂  
      sate    a(代) 中(男)  
      chattiṃsa    a 三十六  
      rajo   as 依(属)  
      dhātuyo    u 界、要素  
      satta     
      saññī saṃ-jñā in 有想の  
      gabbhā    a  
      satta     
      asaññī a-saṃ-jñā in 無想の  
      gabbhā    a  
      satta     
      nigaṇṭhi   i 女ジャイナ教徒/束縛から解放された  
      gabbhā    a  
      satta     
      devā    a 天、神  
      satta     
      mānusā    名形 a 男中 人、人間  
      satta     
      pisācā    a 鬼、吸血鬼  
      satta     
      sarā    a 男中  
      satta     
      pavuṭā    a 結節  
      satta     
      pavuṭa   a 結節  
      satāni    a  
      satta     
      papātā    a 崖、断崖  
      satta     
      papāta   a 崖、断崖  
      satāni    a  
      satta     
      supinā    a 夢、夢占い  
      satta     
      supina   a 夢、夢占い  
      satāni    a  
      cullāsīti    i 八十四  
      mahā   ant 大きい、偉大な  
      kappino    in 劫ある、一劫の  
      sata   a  
      sahassāni,    a  
      yāni    代的 (関係代名詞)  
      bāle    a(代) 愚かな  
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      paṇḍite    a(代) 賢い  
      ca    不変 と、また、そして、しかし  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      sandhāvitvā  saṃ-dhāv 走り廻る、流転する、輪廻する  
      saṃsaritvā  saṃ-sṛ 輪廻する、動き廻る  
      語根 品詞 語基 意味  
      dukkhassa   名形 a 苦、苦痛、苦悩  
      antaṃ    a 終極、目的、極限、辺、極端  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      karissanti.  kṛ なす  
    訳文                
      じつにまた、愚者と賢者と〔を問わず、有情たち〕が流転し輪廻して〔最後には〕苦の終局をなすであろうようなこれら、百四十万と六千と六百の胎をはじめと して、五百の行為者の〔業〕、五の業(眼耳鼻舌身)、三の業(身口意)、業(身口業)、半業(意業)、六十二の行、六十二の中劫、六の生まれ、八の人生階 梯(混迷、遊戯、足観察、独歩、有学、沙門、勝者、零落)、四千九百の生活、四千九百の遍歴行者、四千九百の竜の棲み家、二千の感覚、三千の地獄、三十六 の塵界、七の有想胎、七の無想胎、七の束縛から解放された胎、七の神、七の人間、七の鬼、七の池、七の結節、七百の結節、七の崖、七百の崖、七の夢、七百 の夢、八百四十万の大劫があるのである。  
    メモ                
     ・ 趣旨も文法も難解な一文である(おそらく古層からの伝承なのであろう)。趣旨はおそらく、長い輪廻における様々な業やその帰趣を、範疇論的に列挙したもの であろう(そうだとしても意味不明なものも多いが)。いくつかの項目については『註』の説明を( )でつけくわえた。  
     ・pavuṭaの語は辞書類に見られず、訳も「林(『南伝』)」、「突起(『パーリ』)」、「結び目(『原始』)」など不確定である。『註』は「Pavuṭāとは結節であるgaṇṭhikā」とするのでここでもそう訳したが、意味が通らないのは同じである。すでにコンセンサスが失われた語なのであろう。  
     ・nigaṇṭhiを諸訳は「節」と訳すが、これはPTS辞書にはnir-gaṇṭhiすなわち「結節から解放された」とあるため、これによって訳した(ジャイナ教の祖ニガンタの名もおそらくこの意味でつけられているのであろう)。やはりこれもpavuṭaとの関連も含め、理解が難しいところである。  
     ・このkammeなどはa語基中性が代名詞的変化の男性名詞であるかのようになっているので、そのように表記した。  
                       
                       
                       
    168-7.                
     Tattha natthi ‘‘imināhaṃ sīlena vā vatena vā tapena vā brahmacariyena vā aparipakkaṃ vā kammaṃ paripācessāmi, paripakkaṃ vā kammaṃ phussa phussa byantiṃ karissāmī’ti hevaṃ natthi.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Tattha    不変 そこで、そこに、そのとき、そのなかで  
      na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘‘iminā   代的 これ  
      ahaṃ    代的  
      sīlena    a  
          不変 あるいは  
      vatena    a 男中 禁戒、誓戒  
          不変 あるいは  
      tapena    as 男中 苦行  
          不変 あるいは  
      brahma bṛh 名形 an(特)  
      cariyena  car a  
          不変 あるいは  
      aparipakkaṃ  a-pari-pac a 未熟  
          不変 あるいは  
      kammaṃ  kṛ an  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      paripācessāmi,  pari-pac 使 遍熟させる、増進させる  
      語根 品詞 語基 意味  
      paripakkaṃ  pari-pac a 熟した  
          不変 あるいは  
      kammaṃ  kṛ an  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      phussa  spṛś 触れる  
      phussa  spṛś 触れる  
      語根 品詞 語基 意味  
      byantiṃ    名形 i 遠い、終結、終末  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      karissāmī’ kṛ なす →滅ぼす、終滅させる  
      語根 品詞 語基 意味  
      ti    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
      hi   不変 じつに、なぜなら  
      evaṃ    不変 このように、かくの如き  
      na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi.  as ある  
    訳文                
     そこ(輪廻)では、私はこの、戒、誓戒、苦行、あるいは梵行によって、未だ熟していない業を熟させ、あるいは熟した業に繰り返し触れて滅ぼしてしまおうということは存在しない。じつにこのようなことは存在しないのである。  
                       
                       
                       
    168-8.                
     Doṇamite sukhadukkhe pariyantakate saṃsāre, natthi hāyanavaḍḍhane, natthi ukkaṃsāvakaṃse.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Doṇa    a 依(具)  
      mite mi 過分 a(代) はかられた  
      sukha   名形 a  
      dukkhe    名形 a(代) 中(男)  
      pariyanta   a 依(属) 周辺、制限、究竟、終りにする  
      kate  kṛ 過分 a なされた  
      saṃsāre,    a 輪廻  
      na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      hāyana a 衰損、減退  
      vaḍḍhane,  vṛdh 名形 a(代) 中(男) 増大、増強、奉仕、実践、調整、増養者、国王  
      na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      atthi  as ある  
      語根 品詞 語基 意味  
      ukkaṃsa ud-kṛṣ a 卓越、優秀  
      avakaṃse.  ava-kṛṣ? a(代) 中(男) 下に引く  
    訳文                
     楽苦は升で量られた〔ように定量〕であり、限定された輪廻にあって増減はないし優劣もない。  
    メモ                
     ・pariyantakate saṃsāreも複数主格でとって「輪廻は限定されたものであり」とも訳せる(『原始』や『パーリ』などはそうしている)。  
                       
                       
                       
    168-9.                
     Seyyathāpi nāma suttaguḷe khitte nibbeṭhiyamānameva paleti, evameva bāle ca paṇḍite ca sandhāvitvā saṃsaritvā dukkhassantaṃ karissantī’ti.  
      語根 品詞 語基 意味  
      Seyyathā   不変 たとえば、その如き  
      pi    不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      nāma    an 副対 と、という名の、じつに  
      sutta   a 依(属) 糸、経  
      guḷe    a 処絶 球、球  
      khitte  kṣip 過分 a 処絶 投げられた、捨てられた  
      nibbeṭhiyamānam nir-viṣṭveṣṭ) 受 現分 a ほどかれて  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      paleti,  palāi 逃げる  
      語根 品詞 語基 意味  
      evam   不変 このように、かくの如き  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      bāle ca paṇḍite ca sandhāvitvā saṃsaritvā dukkhassantaṃ karissantī’ (168-6.)  
      ti.   不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     たとえば、またじつに、糸の球が投げられると、まさにほどけながら転がるが、じつにそのように、愚者と賢者と〔を問わず、有情たち〕は、流転し輪廻して〔最後には〕苦の終局をなすのである』と。  
                       
                       
                       
    169-1.                
     169. ‘‘Itthaṃ kho me, bhante, makkhali gosālo sandiṭṭhikaṃ sāmaññaphalaṃ puṭṭho samāno saṃsārasuddhiṃ byākāsi.   
      語根 品詞 語基 意味  
      Itthaṃ    不変 かかる  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      me,    代的  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      makkhali    i 人名、マッカリ  
      gosālo    a 人名、ゴーサーラ  
      sandiṭṭhikaṃ  saṃ-dṛś a 現世の、現に見られた、現証の、自見の  
      sāmañña śram a 依(属) 沙門性、沙門位、沙門法  
      phalaṃ  phal a 果、果実  
      puṭṭho  prach 過分 a 問われた  
      samāno  as 現分 a ありつつ  
      saṃsāra saṃ-sṛ a 依(具) 輪廻、流転  
      suddhiṃ śudh i 清浄、浄  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      byākāsi. vi-ā-kṛ 解答する、解説する  
    訳文                
     じつに尊者よ、私に目に見える沙門の果報を問われてありながら、マッカリ・ゴーサーラは、かかる輪廻による浄化を説いたのです。  
                       
                       
                       
    169-2.                
     Seyyathāpi, bhante, ambaṃ vā puṭṭho labujaṃ byākareyya, labujaṃ vā puṭṭho ambaṃ byākareyya;   
      語根 品詞 語基 意味  
      Seyyathā    不変 たとえば、その如き  
      pi,   不変 〜もまた、けれども、たとえ  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      ambaṃ    a マンゴー  
          不変 あるいは  
      puṭṭho  prach 過分 a 問われた  
      labujaṃ    a パンノキ  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      byākareyya,  vi-ā-kṛ 解答する、解説する  
      語根 品詞 語基 意味  
      labujaṃ    a パンノキ  
          不変 あるいは  
      puṭṭho  prach 過分 a 問われた  
      ambaṃ    a マンゴー  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      byākareyya;  vi-ā-kṛ 解答する、解説する  
    訳文                
     尊者よ、まるで、マンゴーについて問われてパンノキについて答え、パンノキについて問われてマンゴーについて答えるようなものです。  
                       
                       
                       
    169-3.                
     evameva kho me, bhante, makkhali gosālo sandiṭṭhikaṃ sāmaññaphalaṃ puṭṭho samāno saṃsārasuddhiṃ byākāsi.   
      語根 品詞 語基 意味  
      evam   不変 このように、かくの如き  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      kho me, bhante, makkhali gosālo sandiṭṭhikaṃ sāmaññaphalaṃ puṭṭho samāno saṃsārasuddhiṃ byākāsi. (169-1.)  
    訳文                
     じつに尊者よ、私に目に見える沙門の果報を問われてありながら、マッカリ・ゴーサーラは、まさにこのように輪廻による浄化を説いたのです。  
                       
                       
                       
    169-4.                
     Tassa mayhaṃ, bhante, etadahosi –   
      語根 品詞 語基 意味  
      Tassa    代的 それ、彼  
      mayhaṃ,    代的  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      etad   代的 これ  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      ahosi –  bhū ある  
    訳文                
     尊者よ、その私に、この〔思い〕が生じました。  
                       
                       
                       
    169-5.                
     ‘kathañhi nāma mādiso samaṇaṃ vā brāhmaṇaṃ vā vijite vasantaṃ apasādetabbaṃ maññeyyā’ti.   
      語根 品詞 語基 意味  
      ‘kathañ   不変 如何に、何故に  
      hi    不変 じつに、なぜなら  
      nāma    an 副対 と、という名の、じつに →一体どういう訳で  
      mādiso  maṃ-dṛś a 私如き、私に等しい  
      samaṇaṃ  śram a 沙門  
          不変 あるいは  
      brāhmaṇaṃ  bṛh a 婆羅門  
          不変 あるいは  
      vijite  vi-ji 名形 a 打ち勝った/領土、王国  
      vasantaṃ  vas 現分 ant 住まう  
      apasādetabbaṃ  apa-sad 未分 a 拒否、非難、叱責されるべき  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      maññeyyā’ man 考える、思う  
      語根 品詞 語基 意味  
      ti.    不変 と、といって、かく、このように、ゆえに  
    訳文                
     『一体どうして私如きが、王国に住まう沙門あるいは婆羅門を、非難されるべき者と考えようか』と。  
                       
                       
                       
    169-6.                
     So kho ahaṃ, bhante, makkhalissa gosālassa bhāsitaṃ neva abhinandiṃ nappaṭikkosiṃ.   
      語根 品詞 語基 意味  
      So    代的 それ、彼  
      kho    不変 じつに、たしかに  
      ahaṃ,    代的  
      bhante,  bhū 名現分 ant(特) 大徳よ  
      makkhalissa   i 人名、マッカリ  
      gosālassa   a 人名、ゴーサーラ  
      bhāsitaṃ  bhāṣ 名過分 a 話した、語った、所説  
      neva    不変 じつになし(na-eva  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      abhinandiṃ  abhi-nand 歓喜する、喜ぶ  
      語根 品詞 語基 意味  
      na   不変 ない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      paṭikkosiṃ.  prati-kruś 叱る、非難する  
    訳文                
     じつに尊者よ、それで私は、マッカリ・ゴーサーラの語ったことに歓喜することもしないが、非難することもありませんでした。  
                       
                       
                       
    169-7.                
     Anabhinanditvā appaṭikkositvā anattamano, anattamanavācaṃ anicchāretvā, tameva vācaṃ anuggaṇhanto anikkujjanto uṭṭhāyāsanā pakkamiṃ.  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      Anabhinanditvā  an-abhi-nand 歓喜する、喜ぶ  
      appaṭikositvā  a-prati-kruś 叱る、非難する  
      語根 品詞 語基 意味  
      anattamano,  man a 不適意、不悦意、不喜  
      anattamana man a 依(属) 不適意、不悦意、不喜  
      vācaṃ  vac ā 言葉  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      anicchāretvā,  a-niś-car 出す  
      語根 品詞 語基 意味  
      tam   代的 それ  
      eva    不変 まさに、のみ、じつに  
      vācaṃ  vac ā 言葉  
      anuggaṇhanto  anu-grah 現分 ant 摂受する、摂益する、資助する、教護する  
      anikkujjanto    現分 ant 倒れない、顛倒しない  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      uṭṭhāya ud-sthā 立ち上がる  
      語根 品詞 語基 意味  
      āsanā  ās a  
      述語 語根 品詞 活用 人称 意味  
      pakkamiṃ  pra-kram 出発する、進む  
    訳文                
     歓喜せず非難もせず、不満ではあったが不満の言葉出さず、じつにその言葉を受け取りながら、傾倒することなく、座より立って立ち去ったのです。  
                       
                       
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